バ ト ル の 後 で ……

 70人ものマッドエンジェルスのメンバーと戦い、そしてテリーを打ちのめした貴章と涼。二人は伸びているテリーの傍らで、彼等をどうするかを話し合った。
「なあ、貴章。マッドエンジェルスの連中、どうするんだ? このまま放っておいたら、絶対に警察沙汰になるよな?」
 テリーはもちろん、マッドエンジェルスのメンバーは一人残らず意識を失って倒れたままである。彼等の姿を警備員が発見するのに、きっと10分もかからないだろう。これだけ大勢の人間が怪我をして倒れているのだ、誰がどう見ても事件性がある。幾らマッドエンジェルスが巷の人間に疎まれていると言えど、警察は彼等を怪我させた犯人を捜さなければならない。何故、こんな大事になったのかを調べなければならないのだから。涼は、そんな面倒な事で時間を無駄にしている暇はない。そもそも、警察なんかに、こんな戦いをするハメになった理由を言えるわけもない。
「警察などには介入させん。あとの事は、俺の部下が処理するさ」
「は? 部下? 貴章、お前…部下なんかいたのか? って言うか、仕事って、陳大人と2人だけでやってるんじゃなかったのか?」
 貴章の言葉に、涼が驚く。
「芭月、お前はバカか。俺達は世界中で仕事をしてるんだぞ。たった2人だけで賄えるかっ。大体、あの人は殆ど仕事はしない。…使うのは目と口だけだからな。俺ひとりで、どうやって雑務までこなせと言うんだ?」
 貴章が呆れる。
「へぇ、陳大人は何もしないのか…。ところで、気になったんだけど、『使うのは目と口だけ』ってどういう意味だ?」
「目で良品を見極め、口で俺達に指示を出す。それだけさ」
「そういうことか」
 なんて、アホな会話をしていた涼は、急に辺りを見回して声をあげた。
「な、なんだ、こいつら!?」
 気がつくと、スーツ姿の軍団が、マッドエンジェルスのメンバーを何処ぞへと運んでいた。既に作業は終わりに近付いている様子で、最後の大物――テリーを2人の男が運ぼうとしているところだった。
「言っただろう、俺の部下だ。マッドエンジェルスのメンバーを取り敢えず人目の付かない所に移す。…あとのことは、親父が判断を下すだろう」
 マッドエンジェルスとのバトル中に貴章が姿を消したのは、実は部下達を呼び付けに行っていたからなのだ。
「凄いな…。あの人達が現れたの、全然気付かなかったぜ。…なんか皆、顔がいいな。他の社員も顔がいいのばかりなのか? もしかして、貴章の趣味か?」
 涼は素朴な疑問を投げ掛ける。
「何言ってるんだ、芭月。顔の善し悪しで部下を選ぶ訳がないだろうが。偶然だ。俺の趣味などでは決してない! ふ…、敢えて言うなら、『類は友を呼ぶ』ってことだろう」
「……貴章。今の言葉、暗に『俺は顔がいい』って言ってるように聞こえるぞ」
 怪訝な顔をする涼。
「ふん。どうとでもとれ。しかし、言っておくが、俺は顔だけの男ではない」
 貴章は余程疲れているのか、言動が彼らしくない。
「顔だけの男じゃない…。顔はどうか知らないけど、武術の腕は認めるよ。お前のお陰で、さっきのバトルは大分助かったしな。認める…、認めるけどなぁ、貴章、敵の居ないところで無駄に技をだすなよ! お前は年なんだから、体力は温存しろよ。最後の方、息があがりまくってたじゃねえか」
 涼はいきなり先程のバトルのダメ出しをする。
「なに!? 芭月、お前だって人の事言えんだろう。俺が倒して失神した敵を何度も蹴りおって。自分が1人も倒せないのを誤魔化したって無駄だぞ。ちゃんと見てる人間は居るんだからな」
 貴章は、涼の『お前は年だ』発言にキレる。
「何処に居るんだよ?」
「さあな。それと、気絶してる人間を何度も踏むのも止めろ。……どさくさに紛れて俺の事まで踏んだだろう!」
「ふんっ、マッドエンジェルス如きにダウンさせられてるお前が悪いんだろ。俺は倒れた人間は万遍なく踏みたいし、暢気に歩いている鳩は追い掛け回したいんだ」
「お前の言ってる事は訳が解らん!」
「ジェネレーションギャップってヤツじゃねえの?」
「なんだと!?」
「貴章、お前の時代はもう終わったんだぜ。負け惜しみ言うなよ」
「負け惜しみなど言っとらん」
「言ったじゃないか。俺に投げ飛ばされながら『お前こそ、怪我しないうちに帰ったらどうだ』とかってさ。俺に投げ飛ばされてるのに」
「あ、あれはたまたまタイミングが悪かっただけだ」
「ふ〜ん、どうかな。まあ、お前がそう言うなら、そういう事にしておいてやってもいいけどな」
「芭月。貴様、年上に対する礼儀というものを解っていないようだな」
 とかなんとか言い合いをしているうちに――。
「なあ、貴章。俺の言い分が正しいか、お前の言い分が正しいか…。こっちでケリ付けようぜ」
 そう言って涼は構える。
「ふん。いいだろう。今度は手加減なしだ。――何処からでもかかってこい」
 貴章もまた構え、そしてバトル開始。
 こんなことをやっているうちに、夜は静かに明けていったのである。



−了−